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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)2573号 判決 1995年11月30日

控訴人

土田和鋭

右訴訟代理人弁護士

池本美郎

被控訴人

柳浩相

柳敏子

右両名訴訟代理人弁護士

正木孝明

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人柳浩相は、控訴人に対し、二六〇五万五五五四円、被控訴人柳敏子は、控訴人に対し、一六〇〇万円及びこれらに対する平成元年二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人の被控訴人柳浩相に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人の、その余は被控訴人らの負担とする。

五  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人柳浩相は、控訴人に対し、四八〇〇万円及びこれに対する平成元年二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人柳敏子は、控訴人に対し、一六〇〇万円及びこれに対する平成元年二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

次のとおり加除訂正するほか、原判決の「事実」中の「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏九行目末尾の次に改行の上「なお、控訴人、栄和化工、大阪興銀の三者は、本件手形の買戻しについて協議を行い、栄和化工が大阪興銀から本件手形を買戻すことを合意したことにより、又は、割引手形について債権保全を必要とする相当な事情が当時生じていたことにより、栄和化工は本件手形の買戻義務を負ったため、控訴人は、保証人として右八〇〇〇万円を弁済したものである。」を加え、同末行冒頭から三枚目表二行目末尾までを削除し、同末行の「前記の岩本作成名義の」を「また、大阪興銀に対しては、岩本健雨作成名義の包括連帯根保証契約書が差し入れられているが、右」と、同裏七行目の「岩本の負担部分」を「岩本が連帯保証していれば負担すべき部分」とそれぞれ改め、同一〇行目末尾の次に「なお、控訴人が八〇〇〇万円を弁済した際には栄和化工と大阪興銀の取引は継続中であったが、昭和六三年九月五日に栄和化工が倒産したことにより、取引は終了しており、取引終了後には代位の効果が生じている。」を加え、三枚目裏一二行目の「及び岩本」を削り、四枚目表七行目の「遅延損害金」を「利息」と改める。

二  原判決四枚目裏八行目末尾の次に「栄和化工が大阪興銀に対し右手形の買戻債務を負担していたことは争う。」を加え、同九行目の「同4のうち」から同一一行目末尾までを「同4の事実は認める。」と改め、五枚目表五行目末尾の次に「そうでないとしても、控訴人と大阪興銀の間の保証契約によると、大阪興銀と栄和化工の取引継続中は大阪興銀の同意がなければ代位することができないとされているところ、大阪興銀と栄和化工の取引の終了したことを控訴人は主張立証していないから、控訴人は大阪興銀に代位することができない。」を加える。

三  原判決五枚目表九行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。

「三 抗弁(相殺)

1  栄和化工は、平成二年九月二五日当時、大阪興銀に対して、次の債務を負担していたところ、被控訴人浩相は、同日、大阪興銀に対し、栄和化工の連帯保証人として一億一六二三万五三九〇円を弁済した。

(一) 別紙約束手形目録記載の約束手形(額面合計九八九九万円)の買戻債務及びこれに対する各手形の満期の日の翌日から支払済みまで約定年18.25パーセントの割合による遅延損害金

(二)(1) 平成元年五月一日付け消費貸借の残元金一九一〇万円

(2) 同月三一日付け消費貸借の残元金九六〇万円

(3) 同日付け消費貸借の残元金九六〇万円

(4) 右の合計に対する平成元年一〇月一日から支払済みまで約定年18.25パーセントの割合による遅延損害金

2  栄和化工の債務については、柳鉉次、被控訴人ら及び控訴人の四名が連帯保証していたから、被控訴人浩相は、その余の保証人に対して求償し得るところ、鉉次は平成二年九月から所在が不明で、無資力であるから、控訴人に対しては、被控訴人浩相の出捐により共同の免責を得た額の三分の一の三八七五万五一三〇円の求償債権を有している。

3  被控訴人浩相は、平成七年六月六日の本件口頭弁論期日において陳述した準備書面により、右求償債権を自働債権とし、控訴人の本訴請求債権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否及び控訴人の主張

1  被控訴人浩相の相殺の抗弁は時機に遅れた攻撃防御方法であるから却下されるべきである。

2  被控訴人浩相は、抗弁1の弁済の際、大阪興銀から別紙約束手形目録記載の約束手形を受け取り、マルワ及び東伸化成株式会社に対し、右手形金を請求する訴訟を提起している。控訴人の主張する自働債権は右訴訟の請求債権と同一であるから、控訴人の相殺の主張は実質的には二重起訴に当たり許されない。

そうでないとしても、相殺の主張をする以上、右約束手形をマルワ及び東伸化成株式会社に返還しなければならないのに、これを返還しないで相殺を主張することは許されない。

3(一)  抗弁1は認める。

(二)  同2は争う。

栄和化工の大阪興銀に対する債務について、柳鉉次、被控訴人ら及び控訴人の四名のほか岩本健雨が包括的に連帯保証していた。そのほか、個別の消費貸借契約に基づく債務については、岩本智義、西山富彌及び木戸龍夫も連帯保証していた。また、柳鉉次が行方不明で無資力であるとしても、また岩本健雨に連帯保証人の責任を追及することができないとしても、それらについて被控訴人浩相に過失があったから、その負担部分につき控訴人に分担を請求することはできない。したがって、被控訴人浩相が出捐した金額の三分の一を控訴人に求償し得るものではない。」

第三  証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の各証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  次のとおり補正するほか、原判決五枚目表末行冒頭から一〇枚目裏二行目末尾までのとおりであるからこれを引用する。

1  原判決五枚目裏一行目の「のうち、」から同二行目の「たこと」までを削る。

2  原判決六枚目表一行目の「第一五号証の1、2」の次に「(第一五号証の1は乙一二号証と同一)」を加え、七枚目裏五行目から六行目にかけての「一億五〇〇〇万円」を「一億二四〇〇万円」と改め、八枚目表六行目冒頭から同九行目末尾までを削り、同一〇行目冒頭の「(五)」を「(四)」と改め、九枚目裏二行目冒頭から三行目末尾までを削り、同一二行目冒頭の「(六)」を「(五)」と改める。

二1  前記認定事実によると、本件八〇〇〇万円は、控訴人が大阪興銀に支払ったものということができる。

2  そして、前認定のとおり、(一)大阪興銀は、控訴人から本件八〇〇〇万円の支払を受けた後、マルワが栄和化工に振出、交付し、栄和化工が大阪興銀で割引を受けていた約束手形のうち一六枚(額面合計七六〇〇万円)を栄和化工に返還し、四〇〇万円は期日前手形買戻金の内金に充当しているが、これは本件八〇〇〇万円によって、栄和化工に手形が買戻されたものとして処理した結果と見ることができ、(二)控訴人は本件八〇〇〇万円を支払った際に栄和化工が額面合計約一億円の約束手形八五通を交付しているが、これは主債務者として弁済をした保証人に対する求償金の支払のために振出、交付したものと見ることができる。これらに、平成五年九月五日付け調査嘱託の結果、証人姜秀男の証言を総合考慮すると、控訴人は、栄和化工の手形買戻債務について栄和化工の保証人兼物上保証人として、本件八〇〇〇万円を弁済したものと認めるのが相当である。

3(一)  たしかに、成立に争いのない甲三四号証及び弁論の全趣旨によると、栄和化工と大阪興銀の信用組合取引約定によると、栄和化工は、栄和化工又はマルワについて、支払の停止又は破産等の申立てがあったとき、手形交換所の取引停止処分を受けたとき、大阪興銀に対する債権につき仮差押、差押命令等が発送されたとき、責めに帰すべき事由によって所在不明となったときには、当然に割引を受けた手形の買戻義務を負うほか、それ以外の場合でも、債権保全を必要とする相当の事由が生じたときには、大阪興銀の請求によって割引手形の買戻義務を負うものとされていたことが認められ、控訴人が、本件八〇〇〇万円を支払った当時、栄和化工又はマルワにつき右のような事情が生じていたことを認めるに足りる証拠はない。しかし、いかなる場合に割引手形の買戻義務を認めるのかは、信用組合取引の当事者間の合意によって定まるところ、前認定のとおり、平成元年二月ころ、本件根抵当権設定登記の抹消については、栄和化工と大阪興銀間で、栄和化工が八〇〇〇万円分の割引手形を買い戻す旨の合意が成立したというのであるから、右合意の効果として、信用組合取引上栄和化工は八〇〇〇万円分の割引手形の買戻義務を負うに至ったものと解することができる。信用組合取引書上の当然に買戻義務が生ずる場合に当たらないことは、そのことから、直ちに栄和化工に買戻義務が生じていなかったとはいえないのであるから、控訴人が、保証人兼物上保証人として、本件八〇〇〇万円を弁済した旨の認定を左右するものではない。

(二)  また、前記認定事実によると、控訴人は、本件不動産を売却するために本件根抵当権設定登記を抹消してもらうことが必要となり、そのために控訴人が本件八〇〇〇万円を大阪興銀に支払ったということができる。しかし、控訴人が本件八〇〇〇万円を支払った動機が、自己の必要性であるとしても、そのことと、本件八〇〇〇万円の支払を、保証人として(保証債務の履行として)したこととは何ら相いれないものではない。

(三)  さらに、控訴人が本件八〇〇〇万円の支払をしたことによって、栄和化工の大阪興銀の全債務が消滅するものでもなく、その後も取引が予定されていたのであるから、保証人兼物上保証人として本件八〇〇〇万円を支払ったとしても、大阪興銀は、控訴人から本件八〇〇〇万円の支払を受けた後も控訴人の包括根保証人としての地位に変更が生じなかったことは、不合理なことではない。

三  控訴人及び被控訴人らの負担部分について

1  ところで、前認定のとおり、控訴人は、栄和化工の連帯保証人兼物上保証人として、栄和化工の一六枚、額面合計七六〇〇万円の約束手形の買戻債務についてその全額を弁済し、二枚、額面合計九五〇万円の約束手形の買戻債務についてその一部四〇〇万円を弁済したのであるから、その負担部分を超える部分について、他の連帯保証人に対して求償することができる。

そして、控訴人、被控訴人及び柳鉉次の四名が栄和化工の大阪興銀に対する債務につき包括的に連帯保証していたことは当事者間に争いがなく、前出甲一五号証の1(乙一二号証)、2、甲一四号証、弁論の全趣旨によると、栄和化工の大阪興銀に対する割引手形の買戻債務につき保証をしていたのは、右の四名のみであることが認められるところ、控訴人及び被控訴人らの負担部分に関して、特約がある旨の主張立証はなく、また、前記認定の事実関係からすると、控訴人、被控訴人ら及び柳鉉次の受益の割合は明らかでないから、その負担部分は平等と認めるのが相当であり、これを左右するに足りる証拠はない。

なお、控訴人は、岩本健雨名義の保証約定書が大阪興銀に差し入れられていることから、控訴人の求償請求については、連帯保証人を五名として扱い、岩本健雨が保証人であった場合の負担部分五分の一は、右保証約定書を偽造した被控訴人浩相に負担させるべきである旨主張する。しかし、被控訴人浩相が右保証約定書を偽造したことを認めるに足りる証拠がないのみならず、本件は、委託を受けた保証人の他の保証人に対する求償請求であるところ、保証人と認められない岩本健雨の負担部分は存しないから、同人に対する求償請求権があることを前提とする控訴人の右主張は、失当である。

2  また、柳鉉次が行方不明で無資力であることは、当事者間に争いがないところ、被控訴人浩相が柳鉉次の兄であり、栄和化工の「専務」という名称で資金繰り等を中心に行っていた等の前認定の事情があるとしても、それらのみから、柳鉉次の負担部分を、同被控訴人が負担すべきであるということはできず、柳鉉次の負担部分は、控訴人及び被控訴人らが平等に負担すべきである。

3  そうすると、控訴人は、前記一六枚、額面合計七六〇〇万円の約束手形の買戻債務についての弁済に関しては、その負担部分(四分の一)を超える部分について被控訴人らに求償することができるところ、その額は、被控訴人らそれぞれにつき、二五三三万三三三三円である〔(七六〇〇万円−一九〇〇万円)÷三+(七六〇〇万円−一九〇〇万円)÷三÷三。円未満切捨て、以下同じ〕。

また、前記二通、額面合計九五〇万円の約束手形の買戻債務のうち四〇〇万円についての弁済に関して、被控訴人らそれぞれに求償できる額は、七二万二二二一円である〔(四〇〇万円−九五〇万円÷四)÷三+(四〇〇万円−九五〇万円÷四)÷三÷三〕である。

四  抗弁について

被控訴人浩相の相殺の抗弁は、当審における第三回口頭弁論期日において始めて主張されたものであるところ、右期日までには、当事者双方の主張立証はほぼ尽くされていたところ、控訴人は、その自働債権の存在及び額を争っており、それを確定するためには、他の連帯保証人の有無、その負担部分等について、さらに主張立証を要し、これがために訴訟の完結が遅延することは明らかである。そして、被控訴人らは、一審以来弁護士である訴訟代理人に委任して本訴を追行してきている上、甲三〇号証の一によると、控訴人は、平成三年に、本訴の訴訟代理人を代理人として、相殺の抗弁の主張事実と共通する事実を主張して他の連帯保証人に対して求償請求をする訴訟を提起しており、右抗弁をより早い時期において主張することが困難であったことをうかがわせる事情は見当たらないから、右抗弁の提出が当審における第三回口頭弁論期日まで遅れたことは被控訴人の故意又は重大な過失によるものということができる。したがって、右相殺の主張は、民事訴訟法一三九条一項の規定により、これを却下する。

第五  結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求は、被控訴人浩相に対して二六〇五万五五五四円、被控訴人敏子に対して右額の範囲内である請求金額一六〇〇万円及びこれらに対する控訴人の弁済日である平成元年二月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息の支払を求める限度で理由があり、その余は失当であるから、右限度で控訴人の請求を認容し、その余は棄却すべきである。よって、これと一部異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九三条、九二条に、仮執行宣言につき同法一九六条にそれぞれ従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行 裁判官 武田多喜子 裁判官 水上敏)

別紙約束手形目録<省略>

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